「穴 HOLES」(サッカー)①

自分の意志で生き方を「選択」することこそが「成長」

「穴 HOLES」
(サッカー/幸田敦子訳)講談社文庫

無実の罪で
少年たちの矯正キャンプに
放り込まれたスタンリー。
作業内容は砂漠の荒れた大地に
1日1個の穴を掘ること。
彼は辛い日々の中、
ゼロという少年と親しくなる。
ある日、
ゼロがキャンプから脱走し、
行方不明となる…。

アメリカ児童文学の傑作を、
ようやく読むことができました。
評判通りの素晴らしさです。
感動的な少年の成長物語であり、
スリルに富んだミステリーであり、
痛快な冒険小説であり、
夢を感じさせるファンタジーであり、
主人公の一家をめぐる
クロニクルでもあります。

本作品が「児童文学」であるのは、
主人公スタンリーの成長が
手に取るようにわかること、
つまり「成長物語」が
明確になっていることなのです。

スタンリーは気の弱い子どもであり、
いじめられ続けています。
自分で積極的に行動するのではなく、
常に受け身の姿勢です。
だから無実の罪を着せられても、
その運命に従ってしまうのです。

それでもスタンリーは、
辛いことがあっても
決して落ち込みません。
「自分の一家は運が悪い」と言い聞かせ、
それを曾祖父のせいにして笑い飛ばす。
だから無実の罪を着せられても、
悲観して投げやりになったりは
しなかったのです。

彼は理不尽なキャンプでの生活の中で、
周囲の非行少年たちと生活する術を
会得していきます。
はじめはボス格のX線に
睨まれないようにというものでした。
しかし、ゼロと友情を育み、
次第に自分の意見を主張しながらも
周囲と摩擦を回避しつつ
上手に立ち回れるようになるのです。

そしてなんといっても圧巻は、
行方不明となったゼロを探すため、
監視員の隙を突き、トラックを奪って
脱走を図る場面です。
一世一代の勝負に出たのです。
成功するにしても失敗するにしても、
自らの運命が大きく変わるのです。
彼はこのとき初めて自分の意志で
生き方を選択したことになります。

スタンリーは
さらに自分の成長に気づきます。
「キャンプに送り込まれて
 みじめな日々が
 始まったというわけではない。
 その前から、
 学校ではいやなことばかりあった。
 自分で自分を
 あまり好いてはいなかった。
 いまはちがう。
 自分が好きだ。」

これこそがメタ認知であり、
確かな「成長」だと思うのです。

この本は、中学生に必ずや
生き方の大切な指標を
示してくれると思います。
中学校3年生に強く薦めたい一冊です。

※私の勤務校では、
 本書は中学校3年生の
 必読書に指定されており、
 図書室に10冊常備されています。
 学校司書の慧眼に
 いつも感服しています。

(2019.7.16)

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